海に落としてしまった釣り糸や、役目を終えて捨てられた漁網が、その後も海の中で魚や海鳥を傷つけ続けていることをご存知でしょうか。回収されないまま漂い続ける漁具は「ゴーストギア」と呼ばれ、海洋プラスチックごみの中でも特に深刻な問題とされています。この記事では、ゴーストギアとは何か?という基本から、世界と日本で進む対策、そして釣りを楽しむ一人ひとりが今日からできることまで、順番に紹介します。
📋 この記事のポイント
- ゴーストギアとは、海に流出したり捨てられたりした釣り糸や漁網などの漁具
- 海洋プラスチックごみ全体の約1割、日本の海岸漂着ごみでは5~6割が漁業系プラスチック
- 世界ではGGGIという国際組織を中心に回収・リサイクルの仕組みづくりが進行中
- 日本でもWWFジャパンの提言、漁網リサイクル企業、漁業者・自治体の取り組みが拡大中
- ゴーストギアを減らす力になる、釣り人一人ひとりの小さな習慣
ゴーストギアとは何か
「ゴーストギア」とは、海に落としたり、切れて流されたり、あるいは使えなくなって捨てられたりした釣り糸・漁網・カゴなどの漁具のことです。英語の Ghost Gear(幽霊漁具)がそのまま日本語でも使われています。
厄介なのは、漁具は人の手を離れたあとも「漁業」を続けてしまう点です。網に絡まった魚がエサとなって別の魚を呼び寄せ、さらに絡まっていく……という状態が起こることがあり、これは「ゴーストフィッシング(幽霊漁業)」と呼ばれています。海鳥やウミガメが漁網に絡まって身動きが取れなくなる被害も、世界各地で報告されています。
規模も無視できません。世界の海洋プラスチックごみ全体のうち、ゴーストギアは約1割を占めるとされています。一方、日本の海岸に流れ着くプラスチックごみでは、漁業に由来するものが5~6割にのぼるというデータもあります。
さらに、漁網などに使われるナイロンは自然にはほとんど分解されず、海の中で600年ほど形を保つと推定されています。これは海外の海洋ごみ対策機関などが繰り返し使っている推定値で、正確に測定された一つの数字というより、目安として広く使われているものです。それでも、一度海に流出すると非常に長い期間にわたって影響を残し続けることに変わりはありません。
世界の取り組み
こうした問題に対して、世界では官民が連携した取り組みが進んでいます。
2015年には「GGGI(Global Ghost Gear Initiative)」という国際組織が発足しました。漁業者、港湾関係者、水産企業、NGO、各国政府などが参加し、ゴーストギアを発生させないための方法や、流出してしまった漁具の回収方法についてのガイドラインを作成しています。世界中のゴーストギア関連データを集めたオンライン上のデータベースも運営しており、対策の土台となる情報基盤としての役割を果たしています。
国連食糧農業機関(FAO)も2018年に「漁具マーキングのための自主的ガイドライン」を承認しました。漁具に所有者情報などを記しておくことで、紛失したときの追跡や回収をしやすくする狙いです。
持続可能な漁業を認証する国際的な仕組み「MSC」も、2024年7月に規格を改定し、認証を受ける漁業に対して漁具の流出防止とその影響を最小限に抑えることを求めるようになりました。
具体的な回収活動も各地で進んでいます。アメリカ・メキシコ・カナダの3カ国にまたがる「北米ネット回収イニシアチブ(NANCI)」では、これまでに約257トンの廃棄漁網が回収され、その多くが新しい製品にリサイクルされています。フライフィッシング業界での代表例は、米コロラド州のFishpond(フィッシュポンド)です。同社は10年以上前から、回収した漁網を原料とする独自素材「Cyclepond」を開発し、バックパックやベスト、フライボックスなど自社製品のほぼすべてに採用しています。チリ発の企業Bureo(ブレオ)も、回収した漁網プラスチックを原料に、アウトドアブランドの帽子やサングラス、ボードゲームの駒などを製造しており、漁網ごみを価値のある製品に変える仕組みを作っています。
近年ではAIを活用してゴーストギアを発見・回収する技術の開発も始まっており、広い海の中から漁具を見つけ出す作業の効率化が期待されています。
日本の取り組み
日本国内でも、ゴーストギア対策は着実に進んでいます。
WWFジャパンは2025年2月、「日本におけるゴーストギア対策の現在地」という報告書を発表しました。報告書は、漁業者の努力だけでは解決が難しく、素材メーカーから漁具メーカー、リサイクル業者、自治体、政府まで、漁具に関わるすべての立場が連携する必要があると提言しています。
企業の動きも具体化しています。帝人と木下製網は「チームRe:ism」として、漁具を循環利用するビジネスに取り組んでいます。また、ナイロン製漁網のリサイクル事業を手がけるリファインバースグループは、2026年7月に静岡県の下田海中水族館で廃漁網の回収イベントを開催し、地域住民や観光客21名が参加しました。この取り組みはすでに5回目を数えており、市民が漁具問題に直接関われる場として定着しつつあります。
2025年4月には、UMITO Partnersという日本企業が、国内の民間企業として初めてGGGIに加盟したことも話題になりました。
漁業の現場でも、宮城県南三陸町の舘浦漁協のように、漁業者が主体となって漁具管理に取り組む事例が報告書の中で紹介されています。香川県や広島県など、地域の漁業の特性に合わせた対策を進める自治体も出てきています。
回収した漁網を実際の製品に変える取り組みもあります。オフィス家具メーカーのオカムラは、回収漁網から作られた再生ナイロン糸「REAMIDE」を使ったニット製品を展開しています。
個人でできる取り組み
大きな国際組織や企業の取り組みだけでなく、釣りを楽しむ一人ひとりにもできることがあります。
まず、仕掛けを結び直したときに出る糸くずは、その場に捨てずに必ず持ち帰ることです。「糸くず入れ」や「マナーケース」と呼ばれる小さな携帯用ゴミ入れを一つ持っておくと、釣りをしながらでも簡単に糸くずをまとめておけます。カラビナ付きでベストやバッグにすぐ取り付けられるタイプなら、出し入れの手間もかかりません。例えば第一精工ジャンクポケットのような製品があります。
目に見えるゴミには気を配る釣り人でも、根掛かりで水中に残してきた仕掛けやラインには、意外と無頓着になっていないでしょうか。水面下に沈んで見えなくなっただけで、それはまさに本記事の冒頭で紹介した「ゴーストギア」そのものです。根掛かりを減らす釣り方を心がけることは、ラインや仕掛け、ルアーを海に残さないための工夫のひとつです。無理に引っ張ってラインブレイクさせるのではなく、根掛かりしにくいポイント選びや仕掛けの工夫、そして必要以上に細いラインを使わないことで、そもそも釣り具を失う確率を激減させることができます。
自分が出したゴミでなくても、釣り場に落ちているゴミに気づいたら持ち帰る、というのも小さいながら効果のある行動です。特におかっぱり(岸釣り)で楽しむアングラーにとって、ゴミを残さないことは自分たちの釣り場を守ることに直結します。ゴミの放置がきっかけで地権者や自治体とのトラブルに発展し、「釣り禁止」「立入禁止」になってしまった釣り場はたくさんあります。ゴミを残さないことは、その場所で今後も釣りを続けられるかどうかを左右する、切実な問題でもあるのです。年末年始やゴールデンウィーク、お盆といった行楽シーズンには、残念ながら大量のゴミを放置していく人が増えるのも事実です。一人でも多くの釣り人が「自分のゴミは自分で持ち帰る」という当たり前のことを実践してくれることを願っています。
さらに一歩進みたい人は、リファインバースが開催しているような廃漁網の回収イベントや、ビーチクリーニング活動に参加してみるのもよいでしょう。市民が参加できる形で開催されている取り組みは、日本各地で少しずつ増えています。
今後、環境負荷の低い生分解性の釣り糸などが市場に増えてくれば、そうした製品を選ぶことも、釣り人にできる対策のひとつになっていくはずです。東京大学などの研究チームは、販売されている市販のナイロンラインの中に、海中で微生物によって分解が進む銘柄があることを確認しました。具体的には、電子顕微鏡による観察で、エクストラV-500(サンヨーナイロン)、クインスター(サンライン)、銀鱗(東レ)といった製品に分解の兆候があることが確認されています。筆者自身も、根掛かりでラインブレイクして水中に残りやすいリーダーは、すべてエクストラV-500に切り替えています。こうした銘柄をリーダーや仕掛けに選ぶことは、今すぐできる対策のひとつです。
まとめ
ゴーストギアとは、海に流出した漁具が魚や海鳥を傷つけ続け、長期間にわたって海洋環境に影響を与え続けるという問題です。世界ではGGGIのような国際組織や企業が回収・リサイクルの仕組みを作り、日本でもWWFジャパンの提言や企業・漁業者・自治体の具体的な取り組みが広がっています。そして、この問題は決して他人事ではありません。糸くずを持ち帰る、根掛かりを減らす・回収する工夫をする、回収イベントに参加してみる——釣りを楽しむ一人ひとりの小さな行動の積み重ねが、海を守る力になります。
出典
・WWFジャパン「新報告書『日本におけるゴーストギア対策の現在地』発表」(PR TIMES)
・WWFジャパン「ゴーストギア発生予防対策・地域プロジェクト」
・Circular Economy Hub「WWFジャパン、ゴーストギア問題の報告書を発表」
・PATCH THE WORLD「ゴーストフィッシングとは?幽霊漁業の深刻な影響と対策事例を紹介」
・eleminist「ゴーストギアとは? 海に残された漁具が引き起こす問題と対策」
・Ocean Conservancy「Global Ghost Gear Initiative」
・Planeterra「How the Global Ghost Gear Initiative is making waves in marine conservation」
・UMITO Partners「Global Ghost Gear Initiative(GGGI)に加盟」
・時事ドットコム「下田海中水族館で『廃漁網の回収とリサイクルプロジェクト』実施」(リファインバースグループ)
・Fishpond USA「Sustainable Fabrics」
・regenetabi「海洋廃棄物の問題『ゴーストギア』解決に取り組む海外企業を紹介」
・PADIブログ(AWARE日本)「廃漁網の回収とリサイクルプロジェクトがスタート」
・オカムラ「リネット開発ストーリー」
・ハピキャン「海釣り初心者必見!釣り人のマナーやゴミ対策」
・TSURI HACK「釣り場を守るために今できること」
・つり人オンライン「ナイロンラインが水中で生分解される!?」(東京大学・伊藤耕三特別教授インタビュー)
※本記事は信頼できる一次資料をもとに調査・構成され、2026年にClaudeのサポートによって作成されました。
それではまた。








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