こんにちは。Johnです。

福岡県うきは市で、ブランド梨「幸水」5000個、被害額にしておよそ200万円分が盗まれました。丹精込めて育てた梨を盗まれた農家が栽培をやめる決断をしたこの事件は、当然許されるものではなく、全国からおよそ1300件もの応援が寄せられました。同じ頃、新潟県三条市では、400年続いた棚田がサルとイノシシの被害によって今年で幕を閉じようとしています。理由も、農業をやめるという決断も同じなのに、盗難事件には支援が殺到し、獣害にはほとんど反応がありません。日本全国では、野生鳥獣によって年間188億円もの農作物が毎日のように食べられ続けています。なぜ、盗難にはこれほど関心が集まり、それを上回る規模の獣害には関心が向かないのでしょうか。

この記事のポイント

  • 福岡県うきは市でブランド梨5000個(被害額約200万円)が盗難、2年連続で栽培断念(盗難は許されない行為)
  • 新潟県三条市の400年続く棚田も、サル・イノシシの被害拡大により今年でほぼ耕作終了
  • 野生鳥獣による農作物被害は全国で年間188億円(令和6年度・農林水産省)、農作物窃盗(推定数億円規模)とは桁違い
  • 盗難には「加害者」がいて怒りの対象になるが、動物にはその対象がなく、続報も生まれにくいという違い
  • サルは学習能力・記憶力が高く、群れで行動するため被害を防ぎきるのが困難

梨5000個盗難事件の概要

福岡県うきは市で梨農園を営む佐々木浩喜さん(54)は、今シーズン、収穫前のブランド梨「幸水」およそ5000個を盗まれました。被害総額はおよそ200万円相当にのぼります。梨の運搬には人手がかかることから、複数人による組織的な犯行の可能性が指摘されています。

事件後、盗まれた梨がフリマアプリで転売されているのではという臆測も広がりましたが、運営会社は出品状況の確認を進めており、現時点で盗品は確認されていないとしています。そもそも盗まれた梨は収穫時期にまだ達しておらず、加工用にしかならない未熟な状態だったといいます。

この農園では前年もおよそ6000個の梨が盗まれる被害に遭っており、当時雇っていた従業員の給与が払えず、一度は経営が行き詰まりました。父親と二人三脚で再起を図った矢先の再度の被害で、被害総額は2年間で400万円に膨らみ、佐々木さん親子は今年限りで梨栽培をやめる決断をしています。この窮状を知った知人や地域住民が募金活動を始め、全国からもおよそ1300件の応援や支援の連絡が寄せられました。

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獣害によって耕作をやめた農家の実例

盗難とは別に、動物による被害を理由に農業をやめる決断をした事例も実際に存在します。新潟県三条市の「北五百川の棚田」は、江戸時代からおよそ400年、15代にわたって受け継がれてきた棚田で、「日本の棚田百選」にも選ばれています。この棚田を50年にわたって守ってきた佐野誠五さん(77)は、2019年ごろからサルに加えてイノシシの被害が深刻化し、収穫前の稲を食い荒らされたり、獣のにおいがついて出荷できなくなったりする被害が続いてきました。電気柵は自費で設置していますが、棚田全体を柵で囲むことは現実的ではなく、収量の見通しが立たなくなったことが、耕作をやめる決断の決め手になったといいます。佐野さんは「心が折れた」と胸の内を明かしています。来年からは棚田の大部分で作付けを断念し、家族向けの米だけを残すことになりました。

農林水産省も公式の白書で、鳥獣被害が農家のやる気を削ぎ、耕作放棄や離農につながる要因のひとつだと明記しています。盗難のように大きく報じられることは少なくても、動物による被害が農家の廃業に直結している現実は、全国各地で起きているのです。

梨の盗難と棚田の獣害。どちらも農家が農業をやめるところまで追い込まれた点は同じです。それなのに一方には支援の輪が広がり、もう一方にはほとんど反応がありません。この違いがどこから生まれるのか、まず全国規模の数字で確かめてみます。

全国で相次ぐ農作物窃盗の実態

まず、盗難の規模を確認します。うきは市の事件は突出した規模ですが、農作物の窃盗そのものは全国各地で毎年発生しています。警察庁の統計によると、農作物窃盗の認知件数は令和4年が2,194件、令和5年が2,154件、令和6年が2,201件と、いずれも2,000件を超えて推移しています。検挙件数は令和6年で955件、検挙率は43.4%にとどまり、届け出のあった事件の半数以上が未解決のままです。

被害の内容を見ると、被害金額を把握できた事案のおよそ9割は1件あたり50万円未満で、被害場所の半数近くは露地の畑となっています。単価が高く持ち運びやすい果物が狙われやすく、桃、ぶどう、りんご、さくらんぼ、梨などの被害が目立ちます。近年の例では、山形県のさくらんぼ盗難が2025年に過去10年で最多となり、5件の届け出で被害額はおよそ185万円にのぼりました。岐阜県では柿畑からおよそ6万個が盗まれる事件も起きています。

農作物窃盗の認知件数の推移

農作物窃盗の認知件数の推移(単位:件)出典:警察庁

鳥獣被害は年間188億円という現実

次に、獣害の規模を見てみます。日本全体では毎年、はるかに大きな規模の農作物被害が発生しています。農林水産省の集計によると、令和6年度の野生鳥獣による全国の農作物被害額はおよそ188億円にのぼります。前年度の164億円から24億円増加し、被害量は73万tに達しています。

内訳を見ると、シカが79億円、イノシシが45億円、ヒヨドリが8.1億円、サルが7.7億円、クマが5.2億円などとなっています。被害額の大部分を占めているのは、シカやイノシシによる稲作や野菜への食害です。

野生鳥獣による農作物被害額の推移

野生鳥獣による農作物被害額の推移(平成30年度〜令和6年度、単位:億円)出典:農林水産省

盗難と鳥獣被害、規模の比較

件数と金額の両面から、盗難被害と鳥獣被害の規模を並べてみます。農作物窃盗は全国で年間2,000件を超えていますが、その大半が1件50万円未満の小規模な被害だったことは前の章で見た通りです。警察庁は窃盗被害額の全国合計を公式には集計していませんが、この内訳を踏まえると、合計額は数億円規模にとどまると推測されます。

これに対し、野生鳥獣による農作物被害は令和6年度だけで188億円です。件数こそ公表されていませんが、被害額だけを見れば、鳥獣被害は農作物窃盗のおそらく数十倍規模に達していると考えられます。うきは市のように1件で200万円の被害が出れば大きなニュースになりますが、鳥獣による被害は同程度、あるいはそれ以上の金額が、日本中の畑で毎日のように積み重なっているのです。

規模だけで見れば、農家にとってより深刻なのは鳥獣被害の方だと言えます。それでも関心が向かうのは盗難の方です。なぜこの逆転が起きるのか、次に考えます。

「盗難」だけが大きく報じられる理由

件数でも金額でもはるかに大きい鳥獣被害より、規模の小さい盗難の方が話題になる。この逆転を生んでいる理由は、大きく二つあると考えられます。

一つ目は、そこに「責められる相手」がいるかどうかです。人による盗難には、規範を破った加害者が存在します。加害者は罰することも、防ぐことも、非難することもできる対象であり、被害者を守ろうという連帯感が生まれやすくなります。一方、サルの群れには道徳的な意思がありません。サルを「悪者」として糾弾することはできず、被害は台風や干ばつと同じように、自然現象として受け止められがちです。同情は集まっても、盗難事件のような怒りの連帯にはつながりにくいのです。

二つ目は、ニュースとしての「続き」があるかどうかです。盗難事件には、犯人は誰か、捕まるのか、フリマアプリに出品されていないか、といった後追いできる展開があります。うきは市の事件も、警察の捜査状況やメルカリ側の対応など、続報が生まれる余地がありました。一方、鳥獣被害には筋書きも展開もありません。毎年同じ動物が、同じように畑を荒らすだけで、そこに新しい「その後」は生まれにくいのです。

実際、年間188億円という被害額は、農林水産省が白書で毎年公表しており、専門メディアでも繰り返し報じられています。つまり情報が届いていないわけではありません。それでも記憶に残らず、翌年また同じ数字が出ても「またか」で終わってしまうのは、怒りを向ける相手も、追いかけたくなる続報もないからです。知らないのではなく、関心を引く仕掛けがないまま、毎年同じ数字が素通りされている、というのが実情に近いといえます。

ただし、社会の関心が向きにくいことと、被害を防ぎやすいことは別の話です。鳥獣被害の中でも、シカやイノシシは物理的な柵である程度対応できますが、サルは知能が高く柵をかいくぐる力もあるため、特に防ぎきれない相手だとされています。ここまで登場した新潟の棚田も、この後ふれる筆者自身の経験も、いずれもサルによる被害でした。

サルの被害が防ぎきれない理由

サルは幼稚園児程度の学習能力を持つとされ、記憶力にも優れています。一度おいしい作物を食べる経験をすると、その場所を覚えて繰り返しやってくるようになり、群れの仲間もそれをまねて被害が広がっていきます。しかもこの記憶は親から子へと受け継がれるため、一度目をつけられた畑は長期にわたって狙われ続けることになります。

さらにサルは木登りやジャンプが得意なため、地面だけでなく空中からも侵入してきます。人が収穫できないような高い場所の実まで、サルであれば簡単に取り尽くしてしまいます。対策としては電気柵とワイヤーメッシュ柵を組み合わせ、地面と空中の両方をふさぐ立体的な柵が必要とされていますが、それでもわずかな隙間から侵入されることがあり、一軒の農家だけで完全に防ぎきるのは非常に困難です。

実際に、三重県のある地区では、侵入防止柵とICTを組み合わせた対策によって被害額を650万円からおよそ14万円まで減らした例が報告されています。ただしこれは集落全体で継続的に取り組んだ結果であり、個人の農家が単独で実現できる規模の対策ではありません。

筆者自身も、サルの被害を経験しています。地元の店に買い取ってもらう交渉がまとまった翌日、収穫に向かうと、数千個あったはずのスモモが一つ残らず消えていました。人の手が届かないような高い位置の実まで、きれいになくなっていたことから、人による盗難ではなくサルによる被害だと分かりました。収穫間近だった柑橘「かんぺい」も、皮だけを残してすべての実を食べ尽くされたことがあります。それがサル被害の恐ろしさです。

これだけ防ぎきれない被害が積み重なっても、盗難事件のような「今すぐ助けよう」という動きにはなかなかつながりません。次に、獣害への支援制度がどうなっているかを見てみます。

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支援制度はあるのに、届きにくい理由

そもそも、被害を証明すること自体が簡単ではありません。農研機構も、農作物が被害にあっていても、どの鳥獣が食べたのかを判断するのは難しいとしています。盗難であれば、警察に被害届を出し、現場の状況や防犯カメラの映像が証拠になります。しかし鳥獣被害の多くは夜間や早朝に起き、目撃者も映像も残らないうえ、天候不順や病害による減収と見分けがつかないこともあります。

証明の手段が全くないわけではありません。農業共済・収入保険には、共済組合の職員が現地で被害を確認する「損害評価」という仕組みがあり、鳥獣害による減収もこの対象に含まれます。ただしこれはあくまで共済に加入している農家に限った話です。未加入であればこの手段自体が使えず、被害から時間が経つと現場の証拠が失われやすいうえ、どの鳥獣による被害かまで特定できないことも珍しくありません。

支援制度そのものも用意されています。国は「鳥獣被害防止総合対策交付金」を設けており、侵入防止柵の整備や捕獲機材の導入、捕獲活動にかかる費用などを、市町村が作成する被害防止計画に基づいて支援しています。

ただしこの制度は、地域協議会を通じた申請や計画づくりが前提となる行政的な仕組みです。新潟の棚田のように、補助の要件を満たさず自費で対策せざるを得ないケースもあり、盗難事件のように「今すぐ困っている人を助けよう」という自発的な支援の動きにはつながりにくいのが実情です。申請の手間や柵の維持管理費用は、結局のところ農家自身が背負い続けることになります。

結論

盗難は許されない行為です。ただ、新潟の棚田が示すのは、動物による被害でも同じように農業をやめる決断が下されているという事実です。

被害の規模で見れば、鳥獣被害は農作物窃盗よりはるかに大きく、その数字は毎年きちんと公表されています。それでも関心が向かうのは主に盗難事件の方です。差を生んでいるのは金額でも情報の有無でもなく、責められる加害者がいるかどうか、そして追いかけたくなる続報が生まれるかどうか、という二点だと言えそうです。

盗難への怒りと同じだけの関心が、動物による被害にも向けられてよいはずです。

出典

  • うきは市梨盗難事件に関する報道内容(2026年7月)
  • 新潟日報「北五百川の棚田、400年の歴史に幕」(三条市・佐野誠五さん、2026年6月) https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/851483
  • 農林水産省「鳥獣被害の現状と対策」(令和8年7月版、鳥獣被害が営農意欲の減退・耕作放棄・離農の要因である旨の記述) https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/240605.html
  • 警察庁「犯罪統計資料」「刑法犯に関する統計資料」(農作物窃盗の認知・検挙件数)
  • 農林水産省「農作物の盗難の実態と対応策」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/engei/tounan.html
  • 農林水産省「農作物被害状況」(令和6年度) https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/hogai_zyoukyou/index.html
  • 農林水産省「全国の野生鳥獣による農作物被害状況について」(平成30年度・令和元〜5年度の各年度版プレスリリース)
  • 農林水産省「捕獲鳥獣のジビエ利用を巡る最近の状況」(鳥獣種別被害額) https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/h_kensyu/attach/pdf/R5/r5kensyu-061.pdf
  • 農林水産省「鳥獣被害防止総合対策交付金」制度概要 https://www.maff.go.jp/j/budget/2015/pdf/33_pamph27.pdf
  • 農林水産省「畑作物共済損害評価現地調査要領」、NOSAI「畑作物共済」(鳥獣害による減収が共済対象である旨の記述)
  • 農研機構「鳥獣害痕跡図鑑」(被害鳥獣の判別が難しい旨の記述) https://www.naro.go.jp/org/nilgs/choju/sign/index_sign.html
  • サルの生態・被害対策に関する資料(コメリドットコム、協和テクノ、ファームエイジ、アニマルウェルビーイング)

※本記事は信頼できる一次資料をもとに調査・構成され、2026年にClaudeのサポートによって作成されました。





それではまた。





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