日本の漁業生産量は、世界全体の漁業生産量が増え続けるなかで、一貫して減少を続けています。その理由として、よく語られるのが温暖化や外国漁船の影響です。今回は、日本以外でも漁業生産量の減少に苦しんでいる例として、ベトナムの現状を紹介します。ベトナムはEUから9年以上にわたって違法漁業の警告を受け続けながら、資源の枯渇に直面し、具体的な対策を積み重ねています。同じ問題を抱える日本とベトナムですが、両国の間には、見過ごされがちな大きな違いがあります。
要約
- 日本は漁獲可能量(TAC)制度を持つが、生物学的許容漁獲量(ABC)を漁業者の経営状況への配慮で上回る運用
- スルメイカは資源量が危機的水準にもかかわらず、2026年度TACを前年度比約3.6倍に拡大という矛盾
- 日本では稚魚・未成魚のうちに獲ってしまう「成長乱獲」も常態化、漁獲量を守るだけでは不十分という現実
- 例外はクロマグロ。国際ルールで経営配慮による緩和ができず、資源量は12倍に回復
- ベトナムはEUの違法漁業警告(イエローカード)を9年以上受け続けながら、漁具の取り締まりと漁業者の転換支援を継続中
- ベトナム側は資源減少の原因を乱獲と明言、温暖化への責任転嫁なし
- 両国とも資源回復の結果はまだ出ていないが、制度を運用する方向性に明確な違い
目次
世界が増えるなか、日本だけが減り続ける漁業生産量
日本の漁業・養殖業生産量は、1984年に1,282万トンという過去最高を記録しました。当時は世界第1位の水産大国でした。しかしその後、生産量は大きく減少を続け、令和7年(2025年)には357万7,400トンまで落ち込みました。ピーク時の3割に届かない水準です。一方で、世界全体の生産量はこの間、増加を続けています。
農林水産省が2026年5月29日に公表した令和7年(2025年)の漁業・養殖業生産統計(速報)によると、合計の生産量は357万7,400トンで、前年(令和6年)の363万4,800トンから1.6%減少しました。このうち海面漁業は270万500トンで、3.1%の減少です。まいわしやさば類のように増えている魚種もありますが、ほたてがいは17.0%減、かつおは19.6%減と、減少が目立つ魚種も少なくありません。
生産量が減る理由として、よく語られるのが海水温の上昇や、外国漁船による漁獲、クジラによる捕食といった、国外や自然環境に原因を求める説明です。しかし、地球全体が温暖化するなかで世界全体の生産量が増えているという事実は、この説明だけでは無理があることを示しています。
日本にもTAC制度はある——機能しない理由は法律の中にある
日本には、漁獲可能量(TAC)制度という、資源管理のための仕組みがすでに存在します。1997年に導入され、2018年12月には70年ぶりとなる漁業法改正が行われ、それまで別の法律だったTAC制度が漁業法に統合されました。この改正では、TAC対象魚種を増やし、漁獲量の8割をTAC管理の対象にするという目標も掲げられています。
つまり日本は「何もしていない」わけではありません。制度はあります。問題は、その制度がどう運用されているかです。
ここで、ABCとMSYが何を意味するのか説明します。魚は毎年卵を産んで数を増やしますが、親となる魚の数が減りすぎると、生まれてくる子供の数も減ってしまいます。MSY(最大持続生産量)とは、親魚をどれだけ残しておけば、毎年安定して多くの魚を獲り続けられるかを示す、理論上の目安です。ただしこれはあくまで理論値で、実際の海の状況をそのまま表しているわけではありません。生物学的許容漁獲量(ABC)は、このMSYの考え方をもとに、その年ごとの実際の資源量や海の環境の変化など、現実に近い情報を反映させて算出した数字です。つまり、ABCの範囲内で獲り続ければ、親魚は十分に残り、資源は減らず、毎年同じように魚を獲り続けられます。逆にABCを超えて獲り続けると、親魚が足りなくなり、翌年以降に生まれる魚の数も減っていくため、資源はどんどん先細りになっていきます。
TACの設定は、この生物学的許容漁獲量(ABC)を基準にすることになっています。ところが日本の場合、この基準には、「漁業者の経営状況等も配慮する」という条件が加わります。この一文があることで、科学が示す数字を、漁業者の経営状況への配慮を理由に上回ることが常態化しています。乱獲を止めるはずのTAC制度がその役割を果たせないまま、日本の水産資源は減り続けています。
スルメイカと成長乱獲——量を守るだけでは資源は守れない
この構造を象徴する例が、スルメイカです。スルメイカの漁獲量は、2000年漁期に30万トンを超えていましたが、2024年漁期には1万8,000トンを切るまで減少しました。94%の減少です。科学的な資源評価でも、スルメイカには秋に生まれる系群と冬に生まれる系群の2つがありますが、いずれも「これ以上獲ってはいけない」とされる限界管理基準値を大幅に下回る、危機的な状態にあると判定されています。
ところがTACの動きは、この科学的な判定とは逆方向に進みました。2025年度のTACは当初1万9,200トンでしたが、漁業者からの要望を受けて2度増枠され、2万7,600トンになりました。さらに2026年度のTACは6万8,400トンへと、当初比で約3.6倍に拡大されています。資源量は枯渇寸前の水準にあるにもかかわらず、漁獲枠は逆に増えているのです。専門家からは「科学的根拠なしに目先の利益を優先した」という指摘も出ています。
もう一つ見過ごせないのが、魚の大きさの問題です。資源を増やすには、卵を増やす必要があります。卵を増やすには、卵を産む親魚を増やす必要があります。そして親魚を増やすには、稚魚や幼魚を獲らずに残し、自然に大人になるまで成長させる必要があります。「成長乱獲」とは、この稚魚や幼魚を、大人になる前に獲ってしまうことです。親魚になれる魚が減れば、卵も減り、資源は増えません。日本では、これが常態化しています。
例外はクロマグロです。日本で唯一、資源管理に成功しているといえる魚種です。国際ルール(WCPFC)のもとで、小型魚だけでなく大型魚も含めて漁獲量全体が厳しく制限され、漁業者の経営配慮を理由に緩めることができません。その結果、親魚の資源量は2010年の1万2,000トンから2022年には14万4,000トンへ、12倍に回復しました。
ベトナムの現場——あがき続ける発展途上国
ベトナムも、日本と同じく沿岸の水産資源が減少する問題に直面しています。北部のニンビン省では、キハダダイやスズキ、ハタ、バラマンディ、タイといった、経済的に価値の高い魚種の減少が深刻になっています。原因として挙げられているのが、網目の小さい漁具や、海底の生息地を壊すような破壊的な漁法です。
ここで注目したいのは、原因の説明のしかたです。ニンビン省の発表は、資源減少の理由を「集中的かつ無秩序な漁業活動」、つまり乱獲だと明確に認めています。温暖化や外国船のせいにはしていません。日本の議論でよく見られる、海水温の上昇やクジラへの責任転嫁とは対照的です。
この状況に対し、ニンビン省は具体的な取り締まりを進めています。2025年7月から2026年初めまでの間に、447台の車両を検査し、電気ショック装置を使った違法な漁を16件発見、装置14台、発電機2台、電線240メートルを押収しました。同時に、漁業者やその家族に対し、合法な漁具への切り替えや、漁業法の内容を伝える研修も重ねています。
漁法そのものを変える動きも進んでいます。沿岸近くで網を引いて何でも捕る漁法から、サバやマグロなど沖合で選択的に獲る刺し網漁への切り替えが進み、稚魚や小さな魚を獲りすぎない方向への転換が図られています。ハイティン村では、漁業に適さなくなった船や漁業者を養殖業や水産加工業、物流サービスへ転換させるための支援策も実施されています。資金援助や技術研修を組み合わせ、漁業者が生活の手段を失わないようにする工夫です。
ベトナムも「成功」はしていない——9年続くEUの警告
ここで注意したいのは、ベトナムの取り組みがすでに成果を上げているとは言えない点です。ベトナムは2017年10月、欧州委員会(EC)から、違法・無報告・無規制(IUU)漁業への対応が不十分だとして、「イエローカード」という警告を受けました。
このイエローカードが解除されない背景には、規則を守らない漁業者が今も一定数残っているという現実があります。操業基準を満たさない船や、漁業許可の要件を満たさないまま操業を続ける船が各地にあり、取り締まりが追いついていない地域も少なくありません。2026年4月には、ベトナムの副首相が、警告解除に向けて「指導にとどまらず、具体的な行動に結びつける抜本的な実施体制の見直しが必要だ」と述べ、国家レベルの会合で対策強化を指示しました。同年5月には、農業環境省が地方レベルでの対応の遅れを認め、新しい運営委員会の設置を提案しています。
つまりベトナムは、ルールを破る漁業者を抑え込めず、9年近くにわたって資源管理を成功させられていません。しかし重要なのは、その間も歩みを止めていないことです。検査体制を見直し、新しい運営委員会を設け、地方ごとの遅れを一つずつ正していく。漁業者の生活を守りながら資源を回復させるという、本来あるべき方向に進み続けています。
「結果」ではなく「方向性」で見る違い
日本とベトナム、どちらも漁業資源の減少という同じ問題を抱え、どちらも今のところ、その問題を解決できていません。ここだけ見れば、両国に大きな差はないように見えます。
しかし、制度がどちらの方向を向いているかを見ると、違いが見えてきます。日本のTAC制度は、科学的な漁獲枠を、漁業者の経営状況への配慮という理由で上回ることを法律上認めています。つまり制度の運用が、資源を守る方向ではなく、目先の漁獲量を確保する方向に傾く仕組みになっています。
一方ベトナムの取り組みは、違法な漁具の取り締まり、漁法の切り替え、漁業者の転換支援のいずれも、漁獲圧を減らし、資源を回復させる方向を向いています。結果が出るかどうかはまだ分かりませんが、進んでいる方向は資源保護側です。
つまり差は「成功したか失敗したか」ではなく、「あがいている方向が、資源を回復させる方を向いているか、それとも科学の数字を緩めて責任を回避する方を向いているか」という点にあります。
結論——制度の有無ではなく、向いている方向
水産資源を管理する目的は、本来シンプルです。魚を獲り続けられる状態を保ち、漁業者の生活を守り、国民の食を支えること。これはどの国も目指す当然の方向であり、漁業者の経営状況に配慮することそのものは間違っていません。ただし、その配慮は、批判や責任から逃れるための隠れ蓑として使われるものではありません。
ところが日本では、まさにこの配慮が、これまでの資源管理の判断を誤ってきた責任を避けるための隠れ蓑として使われています。そのため、本来必要な漁獲枠の縮小や資源回復の措置が先送りされ続けています。先送りしている間も資源は減り続け、漁業者の廃業は止まらず、将来の食料供給はより厳しくなっていきます。漁業者を守るためという理由で行われている先送りが、結果的に漁業者自身の生活を一番苦しめている構造です。この問題を国民に正面から説明することも、これまで避けられてきました。
ベトナムが乱獲という現実から目をそらさずに対策を続けているように、日本にも同じ姿勢を取る余地があります。すでにクロマグロで、その方法は証明されています。必要なのは、新しい制度ではなく、すでにあるTAC制度の使い方を変えることです。
今は、科学者が算出した数字(ABC)より多い漁獲枠を、漁業者の経営への配慮を理由に認めてしまっています。この数字を超えない範囲で漁獲枠を決めるようにするだけで、TAC制度は本来の役割を果たせます。スルメイカのように、資源が危機的な水準にあるにもかかわらず漁獲枠を拡大するようなやり方は、まず止めるべきです。世界の漁業生産量が増え続けているように、正しく運用すれば日本の魚もまた戻ってきます。
出典
- 農林水産省「令和7年漁業・養殖業生産統計(速報)」(2026年5月29日公表)
- 水産庁「漁業生産の状況の変化」(1984年生産量1,282万トンのデータ)
- オルタナ「スルメイカの漁獲枠拡大に根拠なし」(2026年)
- Wedge「スルメイカ漁獲枠拡大、失われる水産資源と民主主義」(2026年1月13日)
- みなと新聞「スルメイカ大幅増枠を承認/水政審」
- 「魚が消えていく本当の理由」(成長乱獲・マダラ・サバ幼魚に関するデータ)
- 魚河岸ウォーカー「なぜ日本のマグロの乱獲が止まらないのか?」
- 笹川平和財団 Ocean Newsletter「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)における資源管理の進展」
- 日本経済新聞「クロマグロ漁獲枠1.5倍、国際会議で最終合意」(2024年12月3日)
- Báo Tin Tức「乱獲を防ぎ、天然の漁業資源を回復させる」(2026年6月21日)
- VOV5「IUU『イエローカード』解除へ、対策強化を指示」(2026年4月16日)
- vietnam.vn「漁業部門の『イエローカード』を解除するためにあらゆる努力が払われている」(2026年2月27日)
- ニンビン省人民委員会公式サイト「『イエローカード』警告解除に向けた断固たる措置」(2026年5月)
- 水産庁「水産政策の改革(新漁業法等)のポイント」
- 「漁獲可能量」Wikipedia
※本記事は信頼できる一次資料をもとに調査・構成され、2026年にClaudeのサポートによって作成されました。
それではまた。








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