こんにちは。Johnです。

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「なぜ日本の魚は高くなったのか」と聞かれたら、多くの人は「不漁だから」と答えます。しかしその不漁は、なぜ起きているのか。その答えを知っている日本人は、ほとんどいません。原因は海にあるのではなく、本来魚を守るための「制度」にあります。日本には乱獲を防ぐために漁獲量を制限する仕組みが存在しますが、その制度は長年にわたってほとんど機能してきませんでした。そして問題なのは、それが偶然の失敗ではなく、「漁業者への配慮」という言葉のもとに制度の中に組み込まれた構造だという点です。先進国でこのような仕組みを持つ国は、世界に日本だけです。


📋 この記事のポイント

  • 日本のTACはABC(生物学的許容漁獲量)を大幅に上回る水準で設定されるケースが常態化
  • 「漁業者の経営状況への配慮」が法令に明記され、科学的根拠の無視が制度化されている
  • TACが実際に機能しているのは国際管理下のクロマグロのみ
  • 先進国で非個別割当(オリンピック方式)を採用し続けているのは日本のみ
  • 日本の漁獲量は1984年のピーク(1,282万トン)から2025年には約357万トンへと3分の1以下に激減
  • この状況は「構造的問題」ではなく、行政が短期的な政治判断から選んだ結果

そもそもTAC・ABC・MSYとは何か

この問題を理解するためには、まず三つの用語を押さえる必要があります。

MSY(最大持続生産量)とは、魚を減らすことなく継続的に獲り続けられる最大の量のことです。これを超えて獲り続ければ、資源は徐々に縮小します。持続可能な漁業の国際指標として、国連海洋法条約でも基準に据えられています。

ABC(生物学的許容漁獲量)は、MSYという理論上の最大値をベースに、データの不確実性・将来の環境変動・資源評価の誤差といったリスクを考慮して、より現実の資源状況に近づけた形で科学的に算出する漁獲量の上限です。理論値であるMSYをそのまま使うのではなく、安全側に調整した「科学的助言」として毎年算定されます。

TAC(漁獲可能量)は、ABCをもとに国が法律で定める実際の漁獲上限、いわゆる「漁獲枠」のことです。理想的にはTAC=ABCかそれ以下に設定され、実際の漁獲量がTACを超えないよう厳しく管理されます。

ノルウェーやアイスランドなど「漁業先進国」と呼ばれる国々では、漁業者がTACの範囲内に収まるよう漁獲を管理しており、結果としてTACと実際の漁獲量がほぼ一致します。漁獲上限として正常に機能している状態です。問題は、日本ではこの三つの連鎖が最初の段階から断ち切られていることです。

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日本のTACはなぜ機能しないのか──「配慮」という言葉の正体

日本のTACが機能しない核心は、TACの設定方法そのものにあります。水産庁の資源管理基本方針には、TACはABCの範囲内で定めることとされていますが、同時に「漁業者の経営状況等に配慮する」ことも明記されています。この「配慮」という一言が、すべての問題の出発点です。

ここが重要です。この「配慮」という言葉は聞こえこそ良いですが、実際には「科学的根拠を無視することを法制度上で許容する」という意味を持っています。結果として、TACはABCを大きく上回る水準に設定されるか、あるいは予定外の豊漁で漁獲枠に達した場合でもTACを引き上げることで「追認」されるパターンが繰り返されてきました。上限のはずのTACが、実態としてはただの数字になってしまっています。

制度上の問題:EUでも政治的圧力でTACが科学勧告を超えるケースはありますが、EUではそれは「法的義務の違反」として批判・訴追される対象です。日本ではそれが制度として許容されています。

ここで立ち止まって考えるべき問いがあります。なぜ「漁業者の経営状況への配慮」が必要になったのか、という点です。答えは単純です。資源が減ったからです。そして資源が減った原因は、TACが導入された1997年以降も、設定される漁獲枠が甘すぎたために実質的な乱獲状態が続いたことにあります。資源を守るために作られたはずの制度が、機能しないまま放置された結果です。行政の怠慢が漁業者の経営難を生み出し、その経営難を理由にさらに甘い枠を設定する。この悪循環は、行政自身が作り上げたものです。

行政が本来取るべき道は、「今は一時的に漁獲を制限し、資源を回復させ、5年後・10年後には安定した高い漁獲量を確保できる状態を作る」というものでした。ノルウェーやアイスランドはそのプロセスを実際に経験し、政府が支援を通じて漁業者とともに苦しい時期を乗り越えました。その先にあったのが、持続可能な漁業と確実な高収入です。日本の行政は逆のことをしてきました。「配慮」という言葉の裏に隠れ、難しい決断を先送りにし続けた結果、漁業者も国民も長期的な代償を負うことになっています。

さらに問題を深刻にしているのが、日本が採用している「オリンピック方式(非個別割当方式)」です。TACを個々の漁業者や漁船に割り当てず、総量がTACに達した時点で操業を停止する方式です。この方式では「他人に先に獲られる前に自分が獲ろう」という早獲り競争が常に起きます。

ノルウェーやアイスランドをはじめとする漁業先進国はすべて、IQ(個別割当)またはITQ(譲渡性個別割当)方式を採用しています。漁業者や漁船ごとに漁獲量が割り当てられるため、急いで大量に獲る必要がありません。先進国でオリンピック方式を採用し続けているのは、日本のみです。

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サンマの数字が示す壊滅的な乖離

TACと実際の漁獲量の乖離がどれほど深刻かは、サンマの数字を見れば一目瞭然です。2019年、サンマの漁獲量は約4万トンと記録的な不漁でした。しかし国が設定したTACはその年も26万トンのままでした。漁獲量に対してTACは実に6倍以上です。翌2020年の漁獲量は約3万トンに対し、TACは依然26万トン。消化率は2割を切りました。

2021年は国際的な合意を受けてTACが約15万5千トンに引き下げられましたが、実際の漁獲量は約1万8千トンと過去最低を更新しました。TACは漁獲量の8倍以上という水準です。スルメイカも同様の構造が続いています。過去10年(2010〜2019年)のサバのTAC消化率の平均は約61%で、ノルウェーサバのほぼ100%と際立った対比をなしています。

具体的な数字:2019年・サンマ漁獲量 約4万トン/TAC 26万トン(消化率約15%)。2021年・サンマ漁獲量 約1万8千トン/TAC 約15万5千トン(消化率約12%)。上限として機能するには、実際の漁獲量がTACに近い水準でなければなりません。漁獲枠が漁獲量の6〜8倍もあれば、それは上限ではなくただの意味のない数字です。

漁獲枠が実際の漁獲量より大きすぎる状態では、TACは資源管理の道具としてまったく機能しません。この状態でも「TACがある」と言い続けることで、問題の深刻さが外から見えにくくなるという副作用もあります。

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EUとの比較──似て非なる問題

日本以外にもTACが科学勧告を超えている事例はあります。EUでは2020年時点で、北東大西洋・バルト海・深海を対象とした129のTACのうち48%が科学的助言を上回って設定されていました。スペインやフランスなどが南大西洋のタラやメルルーサで科学勧告を大幅に超過し、NGOによって「乱獲リーグ表」と呼ばれる批判文書が公開されたこともあります。

しかし、日本とEUの問題は本質的に異なります。第一に、EUは129もの魚種にTACを設定しており、日本の14魚種と比べてカバー範囲がまったく異なります。第二に、EUでは科学勧告を超えたTACは「法的義務の違反」として批判・訴追される対象であり、NGOが法的手続きを起こしたケースも実際に存在します。EUは「部分的・一時的な失敗」ですが、日本は「ほぼ全魚種・慢性的・制度化された無効化」という構造的な違いがあります。

さらに言えば、EUには科学的助言を提供するICES(国際海洋探検協議会)という独立機関があり、TACの設定プロセスが外部から監視・批判できる透明性があります。日本では「配慮」という名の科学勧告を政治的に上書きするプロセス自体が制度の中に隠れており、透明性の観点からも大きく後れを取っています。

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ノルウェー・アイスランドが成功した理由

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ノルウェーとアイスランドは、同じTACという枠組みを使いながら、日本とはまったく異なる結果を出しています。ノルウェーのサバは、TACと実際の漁獲量が毎年ほぼ100%の消化率で一致します。これは偶然ではなく、漁船ごとに漁獲枠を個別に割り当てるIVQ方式の採用と、MSYおよびABCに基づいて科学的に算定されたTACを厳格に適用するという運用の結果です。

アイスランドとノルウェーでは、科学者が資源量を調査してTACという天井を決め、その上でIQにより各法人・各船舶・各漁業者の最大可能漁獲量が割り振られています。割当は実質的な資産価値を持ち、漁業者にとって「枠を守ることが自分の利益になる」構造になっています。

ノルウェーの成功には、もう一つ重要な背景があります。1960〜70年代にはノルウェーでも漁業への補助金が付加価値の70%に達するほど過大で、資源管理が機能しない時期がありました。転換点になったのは、EUとの自由貿易協定の締結と補助金の段階的廃止です。補助金に頼れなくなったことで、漁業自体を持続可能な産業に作り変える必要性が漁業者側にも生まれました。

北欧の漁業・水産関係者の間では、日本の現状は資源管理の反面教師として広く認識されています。科学的根拠に基づく漁業管理が達成されているノルウェー・アイスランドからすれば、日本のTAC運用は根本的に異質なものとして映っています。

「日本と同じ轍を踏んではならない」

これは北欧の漁業関係者が日本の漁業管理を見て口にする言葉です。資源管理に成功した国々にとって、日本は「こうなってはいけない」反面教師として認識されています。

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改革が進まない理由──制度的障壁と政治的構造

日本の漁業改革が進まない理由は複合的です。

第一に、小規模沿岸漁業者の数と政治力

高齢化が進む一方で全国に散在する漁業者・漁協が票田として機能しており、厳しい漁獲規制を実施しようとする政治家は支持層を失うリスクを負います。水産庁の内部でも「IQ方式の導入によって高齢者を中心に離職者が増えることは、漁業者の数による政治力の低下につながる」という懸念が改革の壁になっていると指摘されています。

第二に、漁協による既得権益の問題

漁業権は地元漁協に優先的に付与される仕組みになっており、企業の新規参入や規模の経済が働きにくい構造です。IQ方式を導入すると、漁獲割当が実質的な資産として個々の漁業者に帰属します。そうなると既存の漁業者間で利害が対立する初期配分の問題が生じ、漁協内部からも反発が起きやすくなります。

第三に、制度の透明性の欠如

日本のTAC設定プロセスでは「漁業者の経営状況への配慮」がブラックボックス化しており、科学勧告がどのように政治的に書き換えられたかが外からわかりにくい状態です。EUのように外部の独立機関が公開データで批判できる構造になっていないため、問題が社会的に可視化されにくい状態が続いてきました。

「配慮」という名の責任放棄──行政が選ばなかった道

制度的障壁だけでは説明できない問題がもう一つあります。それは、行政側の意思の問題です。

漁業者の経営が悪化したのは、過度なTAC設定により資源を枯渇させた結果です。その責任は第一義的には行政にあります。本来、行政が取るべき道はこうだったはずです。「現在の資源状況は厳しい。しかし、今ここで科学的な上限を守れば、5年後・10年後には資源が回復し、安定した漁獲量を確保できる。その間、政府は融資・技術支援・転職支援で一緒に乗り越える。」漁業者にそう説明し、実際に支援施策を用意し、ともに前に進む。それがノルウェー・アイスランドが選んだ道でした。

日本の行政が選んだのは、その逆でした。「漁業者の経営状況への配慮」という言葉で、科学的上限を無視した甘い枠を設定し続けました。短期的には「配慮している」という政治的ポーズが取れます。しかし長期的には、資源はさらに減り、漁業者の経営状況はさらに悪化します。その結果が、1984年比で3分の1以下という2025年の漁獲量です。

他に選択肢がなかったわけではありません。難しい決断を避けただけです。「配慮」という言葉は、その責任放棄を覆い隠すための修飾語に過ぎません。

2018年の漁業法改正は一歩前進でした。しかし、2020年に施行されてから6年経った現在でも、科学的根拠に基づくTACの実質化と個別割当方式への移行は実現していません。行政の本気度が問われる局面は、今もなお続いています。

結論

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日本のTAC制度が機能していないことは、数字が証明しています。1984年に1,282万トンだった漁獲量は2025年には約357万トンと3分の1以下に激減し、同じ期間に世界全体の漁獲量は約2倍に増えました。この間、世界では「資源管理に成功した漁業」が増え続けましたが、日本はほぼ唯一の例外として漁獲量の減少が止まらない状態が続いています。

それは偶然ではなく、選択の結果です。TACという制度が悪いのではありません。ノルウェー・アイスランド・ニュージーランド・米国など、先進国はみなTACを含む資源管理制度を導入し、成功させています。問題は日本の運用です。①ABCを無視したTACの設定、②「漁業者の経営配慮」という名目での科学の政治的上書き、③先進国で唯一残るオリンピック方式、④わずか14魚種という対象の少なさ──この四つが組み合わさった構造は、先進国の中で日本だけが持つ固有の問題です。そしてそれは「変えられない構造的問題」ではなく、「変えることをしなかった選択」です。

また、「形骸化したTACがある」状態は「TACがない」状態より始末が悪い側面もあります。制度があるという体裁が、問題の深刻さを覆い隠すからです。実効性のない管理を続けることはコストと時間の浪費であり、その間も資源は減り続けます。

コメ不足が話題になったとき、人々は敏感に反応し、流通や政策への批判が広がりました。しかし漁業では、40年かけて漁獲量が3分の1以下になっても、社会問題として広く取り上げられることはほとんどありませんでした。コメが不足すればスーパーの棚から姿を消し、価格が上がり、誰もが気づきます。しかし魚は、獲れなくなっても少しずつ値が上がり輸入品に置き換わるだけで、問題が可視化されにくく、国民の間で話題になりにくいのです。

改革が進むかどうかは、制度の設計だけでなく、この現実を知る人が一人でも増えることにかかっています。「日本の漁業資源が減り続けているのは自然の恵みの問題ではなく、行政が漁業者に乱獲をさせ続けた結果である」──その事実が広く知られるようになれば、政治的な圧力は自ずと生まれます。しかし魚は待ってくれません。知らないまま時間が過ぎれば、取り返しのつかない資源の喪失だけが残ります。

出典

  • 水産庁「資源管理の部屋」(漁業法・TACの制度解説)
  • 水産庁「令和2年度 水産白書」(漁業生産量の動向)
  • 農林水産省「漁業・養殖業生産統計」
  • 参議院農林水産委員会調査室「水産資源管理をめぐる課題〜TAC制度の問題とIQ方式等の検討〜」(2011年)
  • EIC「環境用語集:漁獲可能量(TAC)」
  • Seafood Legacy Times「TAC(漁獲可能量制度)とは」
  • 片野歩「魚が消えていく本当の理由」(suisanshigen.com)
  • 東洋経済オンライン「魚が獲れない日本と豊漁ノルウェーの決定的差」(2022年)
  • Wedge Online「ノルウェーと比較すれば日本漁業の問題は浮き彫りに」(2022年)
  • 東京水産振興会「ノルウェーの漁業管理から何を学ぶべきか?割当制度の利点と課題」(水産振興ウェブ版 第644号)
  • 松下政経塾「日本を海洋大国にするための第二歩:ノルウェー・アイスランドの水産現場から」(2023年)
  • Oceana Europe「EU Fisheries Council turns a blind eye to overfishing」(2021年)
  • Pew Charitable Trusts「EU Fisheries Management Still Not in Line With Scientific Advice Despite 2020 Deadline」(2020年)
  • WWFジャパン「北太平洋漁業委員会2025結果報告 サバやサンマの漁獲枠削減も不十分」(2025年)
  • nippon.com「漁業生産量は30年間で半減」(2023年)

※本記事は信頼できる一次資料をもとに調査・構成され、2026年にClaudeのサポートによって作成されました。




それではまた。





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