身近な魚ほど、資源としての管理は見落とされがちです。
アジもそのひとつ。
釣って楽しく、食べて美味しいアジですが、「何センチならキープしていいのか」を意識する人は多くありません。
この記事では、アジの産卵期や成熟サイズなどの科学的な根拠に基づいて、正しいリリースの目安を解説します。
アジの産卵期はいつ?
マアジの産卵期は、地域によって違いはあるものの、おおむね4月から8月にかけてです。
特に九州から関西の太平洋沿岸では5月〜6月がピークとされ、東北や日本海側ではやや遅れる傾向があります。
メスはこの時期、体内で卵を成熟させて一度に数十万粒を放卵しますが、すべての卵を一度に産むのではなく、数回に分けて産卵を行う「分離放卵型」です。
このため、抱卵個体が数か月にわたって釣れることになります。
つまり、春から夏のあいだに釣れる大きめのアジの中には、まさに今産卵に向けて体力を蓄えている親魚が多く含まれているのです。
成熟サイズの目安──20cm未満はまだ早い
釣り人がよく使うメジャーでは、魚の「鼻先から尾びれの先端まで」を測ります。
これは「全長(ぜんちょう)」と呼ばれる測定方法です。
一方、研究機関などで使われる「体長(たいちょう)」は、尾びれの分かれ目までを測った長さで、全長よりも約1割ほど短くなります。
つまり、体長18cmで成熟するとされるマアジは、釣り人が測る全長に換算するとおよそ20cmに相当します。
この「全長20cm」が、未成熟と成熟の境界線といえるサイズです。
実際の成熟割合を全長で見ると、
- 〜19cm:成熟割合は0〜30%程度。未成熟の個体が大半
- 20cm:初回成熟が始まるライン。成熟割合は30〜40%程度
- 21〜22cm:成熟割合は50〜70%程度。まだ未成熟も多い
- 23cm以上:成熟率は80〜90%。産卵経験ありの個体が中心
- 25cm以上:成熟率はほぼ100%。複数回産卵済みと判断できる
このため、全長で20cm未満のアジは未成熟の可能性が極めて高く、確実にリリースすべきサイズです。
さらに、20〜22cmも資源保護の観点では慎重な判断が求められます。
「大部分が産卵を終えている」と判断できるのは、全長で23cm以上の個体です。
成長乱獲とは?
成長乱獲とは、魚が十分に育つ前に釣ってしまうことで、その魚が本来果たすはずだった産卵と資源への貢献を奪ってしまう行為です。
マアジのメスは、1回の産卵で数十万粒の卵を産みます。
まだ産卵を経験していない若い魚を釣ってしまえば、その魚が一生のうちに生むはずだった何百万粒もの卵──つまり未来のアジの群れそのものを消してしまうことになります。
資源として見たとき、最も大きな損失は「一度も産卵しないまま死ぬ魚」が増えることです。
釣り人がその段階の個体を持ち帰るたびに、将来の海からそれだけの魚が減っていくということになります。
それが、成長乱獲の本質です。
リリースとキープの判断基準──23cm以上でようやくキープ可
以下は、釣り人が測る「全長=鼻先から尾びれの先端まで」を基準に、アジの成熟割合とキープの目安をまとめたものです。
全長(cm) | およその成熟割合 | 資源管理上の推奨 |
---|---|---|
〜20cm | 約0〜30% | 未成熟。必ずリリースすべき |
21〜22cm | 約40〜70% | 初回成熟段階。産卵していない個体も多く、成長乱獲に該当 |
23〜24cm | 約80〜90% | 産卵経験ありの個体が大多数。キープ可能な基準サイズ |
25cm〜 | 約90〜100% | 複数回産卵済。キープしてよい資源ライン |
つまり、釣り人がキープしてよいサイズの目安は、全長で23cm以上。
20〜22cmでは、たとえ成熟し始めていても、まだ将来の産卵を担う重要な段階にある個体です。
また、地域によってはアベレージサイズが小さく、25cm以上のアジがなかなか釣れない場所もあります。
本来であれば「産卵を複数回終えた個体」である25cm以上を基準とすべきですが、現実的な釣果との兼ね合いを踏まえ、この記事では“資源的に許容可能かつ達成しやすいライン”として23cmをキープ基準に設定しています。
これは甘い見積もりであることを自覚したうえで、まず釣り人が守りやすいラインから資源回復への行動を始める──その第一歩としての提案です。
おわりに──あなたの一匹が未来を変える
ここまで紹介してきたように、アジは20cm未満ではまだ未成熟であり、産卵経験がない個体も多く含まれています。
リリースとキープの判断には、科学的な根拠と資源への配慮が必要です。
とはいえ、たとえ18cmや20cmのアジであっても、持ち帰ること自体は法律で禁止されているわけではありません。
でも、その行動が「一度も産卵していない命を奪うこと」であり、魚が減っていく一因になる──それは紛れもない事実です。
「みんなが釣ってるから」「誰かが18cmでもいいと言ってたから」──そうやって、都合のいい情報だけを信じて自分を納得させるのではなく、根拠に基づいた知識に目を向け、自分自身で責任ある判断をすること。
それこそが、釣り人としての誇りであり、未来の海を守る最も確実な方法なのです。
それではまた。




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